MONTBLANC SPECIAL INTERVIEW by Susumu Koyama エス コヤマ パティシエ  小山 進・スペシャルインタビュー

日本を代表するパティシエのひとり、「パティシエ エスコヤマ」の小山進シェフ。看板メニューの「小山ロール」をはじめとする数々のスイーツを手掛け、世界最大のチョコレートの祭典“SALON DU CHOCOLAT Paris(サロン・デュ・ショコラ パリ)”で「外国人部門最優秀賞」を2年連続で受賞されるなど、国内外で幅広く活躍されています。そんな小山シェフの白衣を作らせていただいたことで、今回のインタビューが実現。パティシエとして、また実業家としても注目を集める小山シェフに、白衣やお店のこと、職人としての想いなど、さまざまなお話を伺いました。

Special Feature:モノづくりは、自分づくり。人との勝負ではなく、自分らしく生きること。

自分が心から良いと思えるかどうか。それがすべての基準です。

小山シェフにとっての白衣とは?
僕はいつも、自分の思い描く味や世界観を表現することを大切にしています。例えばお菓子の材料も納得のいくものを自らの足で探しますし、パッケージも一からデザインを考えます。オーブンなどの調理器具も、専用のものを作ってもらいました。
こんなふうにエスコヤマは、僕が良いなと思うものの積み重ねでできています。もちろん白衣も、エスコヤマらしさを表現する大切な要素。ですから今回は、自分の好きなものを着たいという思いでオーダーしました。まず私服を参考に見てもらい、好みのデザインやフォルムをお伝えして、ふだんからよく着ているデニムを素材に選びました。デニムの白衣は珍しいと言われることもありますが、業界の常識や世の中の流行よりも、自分が良いと思う感覚を大事にしたいんです。細かいディテールも含め、納得して「着たい」と思えるものになるまで、何度も何度も、やりとりさせてもらいました。この白衣を着ていると、日本でも海外でも、「それどこのですか?」ってよく声をかけられるんです。
僕はエスコヤマが発信するものはすべて、人をわくわくさせるものにしたいと思っているので、白衣でもそれが実現できたのかなと思います。
モノづくりで大切なことを教えてください。
人それぞれ育った環境やインプットしてきたものが違うので、生まれてくるものはみんな違います。誰かと比べたり、競争したりではなく、自分が心から良いと思えるかどうか。そこが一番重要なことだと思っています。例えばケーキの試作でも、僕は誰かに意見を求めることはありません。僕が表現したいと思っている味は、僕の中にしかないからです。その基準がブレてしまうと、エスコヤマではなくなってしまいます。だからモノづくりには、自分自身がとても大切。そこには経験したことや学んだことなど、これまでの人生すべてが現れるからです。人を楽しませる商品やお店を作るには、まず自分が楽しんで生きること。作り手が楽しんでいなければ、お客さまに感動してもらえません。自分らしく生きる、それが本物のモノづくりにつながっていくと思います。

日々の生活のなかにアイデアのヒントはいくらでもある。

小山シェフの多彩なアイデアの源は?
アイデアは考えて生み出すというより、見たことや聞いたこと、肌で感じたことから、自然に湧き上がってきます。エスコヤマにはカフェやパン工房、子供しか入れないお菓子店などさまざまなお店があります。それぞれコンセプトもデザインも違うのですが、これもアイデアありきでできたものではないんです。オープン当初からありがたいことに多くのお客さまが並んでくださったので、行列を解消するためにお店を分け、並んでいただいたお客さまにくつろいでもらえるようにカフェを作り…というふうに、課題に取り組んできた結果なんです。ひとつ解決したらまた次の課題、それを繰り返しているうちに、敷地は300坪から1500坪に、お店は7つになっていました。エスコヤマのランドスケープを設計士さんが見ると、あり得ない!ってびっくりされるんですよ(笑)。でもこれが、エスコヤマにとっては必然の形。お客さまに快適にお買い物していただくために、少しずつ何年もかけて取り組んできたことが、今の形になっているんです。課題は、なにかを生み出す源です。バウムクーヘンの厨房が手狭になった時、僕はただ面積を広げるだけでなく、中が見える厨房に作り変えました。手狭になったのはマイナス、でもお客さまを楽しませる仕掛けができたから結果プラス。マイナスをプラスのチカラに変える発想も、アイデアのひとつだと思います。
新しいものを生み出すヒントになるものは?
どんなクリエイションにおいても、完成した瞬間に、新しいものを生み出したい欲求が生まれてきます。これでいいやと満足したら、そこで成長は止まってしまう。僕らの仕事は、次々と新しい商品を作り出して、しかもそれがすべて美味しくないと、ダメになったと言われます。ずっと進化と成長を続けていかないといけない。そのためには、常に勉強が必要です。勉強といっても、何か特別なことをするわけではありません。僕はどんなこと、どんなものからでも、ヒントは得られると思っています。大切なのは、常に考えるクセをつけておくこと。そうすると、ふとした時に「これだ!」と思うものに出会えます。僕は食事によく出かけますが、料理を食べることはすごく勉強になります。おいしい料理を楽しむと同時に、甘いソースも合いそうだなとか、塩気を足したらどうなるかなとか、自分なりの味つけを想像してみるんです。味のデザインを考えながら食べていると、味覚の訓練にもなりますし、仕事場にいるよりもずっと勉強になります。

白衣に限らず、自分に合った着こなしが大切。

成長には、何が必要だとお考えですか?
当然のことですが、白衣もお菓子の材料も、最初からオーダーできたわけではありません。修行中にこんなの着てたらぶっとばされますよ(笑)。でも若いパティシエがこれを見て、あの白衣はどこのだろう、自分もあんな風になりたいと憧れることは大切だと思うんです。そういう目標にしてもらう立場になってきたのかなと感じます。白衣をオーダーすると、もちろん値段は高くなります。値段が高い=プレミアムだとされがちですが、自分が着たい白衣を着る、というシンプルで当たり前の事がプレミアムなのだと思います。白衣に限らず、本来あるべき姿、思いや意思のあるものがプレミアム。その本質的な意味を、作り手として、発信する側として、意識しないといけないな、という思いはあります。白衣でも私服でも、着こなすことが大事だなと思うんです。
着こなすっていうのは、身に合っている、似合っているということ。昔の自分の白衣を見るとかっこわるいな~と思いますが、その当時はそれがかっこいいと思っていた。でも、それでいいんです。その瞬間のリアルな感覚や感情が大切。ムリな背伸びや人からのお仕着せではなく、その時自分が心から感じたことで行動しないと、うまくはいきません。僕も若いときにムダなことや遠回りをしてきたから今があるんです。
子どもたちの未来について、想いをお聞かせください。
子供たちに伝えたいこと、感じてほしいことは、たくさんあります。例えば、大人立ち入り禁止のお菓子店「未来製作所」を作ったのは、子供たちが大人に話を聞いてもらう環境を作りたかったからなんです。大人は入れないから、子供に中の様子を聞きますよね。子供って、大人が真剣に話を聞いてくれるとうれしいんです。僕自身よく母親に「聞いて聞いて!」と言っていましたし、母親が忙しいときは近所の人にも言っていました(笑)。そこで僕は、自分の想いを伝える喜びを知ったんです。僕にとって、この「伝えたい」という想いは大きな原動力。だから今の子供たちにも、その喜びを知ってほしいと思って作りました。
僕は今でも子供の頃、石の下をのぞいて何がいるかな?っておもしろがっていたような気持ちが、衰えていないんです。だから子供の頃にわくわくする経験をたくさんしてもらうことが、大人になってからも情熱を持って生き続けるチカラになるんじゃないかと思います。

最後に お店をオープンされてから12年、常に自分の感覚を信じ、お客様の喜ぶストーリーを展開し続けてきた
小山シェフ。今回のユニフォーム作りを通して、モノづくりとは何か、クリエイティブの本質を見せていただきました。ユニフォームも、お店を構成する要素のひとつ。料理や商品と同じように、そこに込められた想いを表現し、お客さまにしっかりと伝えられるモノづくりを、私たちも続けていきます。

Information

es koyama 株式会社パティシエ エス コヤマ 〒669-1324 兵庫県三田市ゆりのき台5丁目32-1 営業時間 10:00~18:00 http;//www.es-koyama.com
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